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2017-10

韓国ドラマ「トッケビ」小説 コツコツ翻訳18 許しのような口実  - 2017.08.26 Sat



だからお前がずっと必要だと言ってくれたら有難い。そこまでやれと言ってくれたら。
そんな許しのような口実が。。。できたら嬉しい。
その口実で俺がずっと生きていけたら嬉しい。お前と一緒に


場面、名セリフですなあ・・・
白い雪山の中で幻想的で二人の皮肉な運命がさらに悲しくなるという・・・(T_T)
演出もうまい!
私の好きな場面ですね。

ということで、トッケビ訳もコツコツやってます~(^_-)-☆
この章もかなり長く、せつないです。

P85
許しのような口実  허락 같은 핑계

雨が朝まで続いた。死神は早朝からリビングに来て窓の外の雨を見ていた。トッケビの部屋のドアがバンと開き、彼が階段を下りてきた。
昨晩ウンタクが家に戻らなかったという事実に気づいたトッケビの歩みが急いでいた。ただ戻らないのではなかった。電話も受けず部屋にウンタクのカバンも服も、大事にしていた人形もなかった。
 「ウンタクがいない。戻ってこなかった。たぶん家出したみたいだ」







トッケビがソファの上のコートを慌ただしく掴み言った。彼を見ていた死神は話をするのが辛かった。すべて自分のせいだというのを言おうとするが何か言おうとする前にトッケビがドアの外に消えてしまった。ドアのすき間できらきらと光りが放たれた。
トッケビは何回かドアを開けて出たり入ったりした。最初に訪ねた所は激しい波風が吹き荒れる海辺だった。海辺にも、学校にも、図書館にも、しょっちゅう通った小路のどこにもウンタクは見えなかった。トッケビはだんだん苛立ち始めた。なぜ突然家を出たのかもわからず、なぜこんなに訳もなく不安なのか理解するのも大変だった。不安感に手先が痺れそうだった。昨日三神が言った言葉が今もなお頭の中をぐるぐる回っているせいだった。
彼は裏道の鬼神らまで訪ねて聞いたが、ウンタクの行方を知っている鬼神は誰ひとりいなかった。最後に残った場所はウンタクがアルバイトをしているチキン屋だった。ウンタクが死神を避けて身を隠したところでもあり、そこならいるかもしれないという最後の希望をかけ位置を調べるためにトッケビはまず死神の所へ行った。死神が毎日のようにチキンを買ってくるのがその店だった。
茶屋で業務の準備をしていた死神はトッケビが入ってくるとついに来たかと思った。先に言っておきたかったが、どうすることもできず、ドアを出たり入ったりするトッケビに言葉をかける暇もなかった。ウンタクがアルバイトをするチキン屋がどこかと催促するように聞くと、慌ただしくまた出て行こうとするトッケビを死神が掴まえた。
 「実は犯人は俺だ。俺が全部話した。その他漏落者に」
P87
何のことか一度に理解できなかったがすぐに悟ったトッケビがため息を吐き出した。
 「剣を抜けばお前が死ぬと全部話した」
 「おかしくなったのか?それを話してどうするんだ!俺に絶対言うなといったくせに!」
 「そうなんだけど、今回もやはりその他漏落者の味方だから」
 「でしゃばるな!何が味方だ!」
 「お前が死ぬのを望まない。他の意味はない、ただお前が無に戻るとちょっと退屈だと思って。怒ってもいい」
怒らなければならないのは当然だが、怒るのも辛かった。茫然自失となりただ死神を見ていただけだった。死神の表情に寂しさが滲んでいた。やぼったい帽子を被ったあいつと友情が生まれてしまったのは明らかだった。トッケビは深いため息を飲み込んだ。彼の話を伝え聞いたウンタクが心配になった。
 「なんで怒れる!なんで!俺に死ねと切望していた奴が死ぬなと言ってるんだぞ!俺だって食べるム(大根)にはなりたくない!」
かっとなって叫びトッケビが茶屋を出た。

まだ営業時間前の店のドアに“Closed”の札と一緒に“アルバイト求む”と書かれた紙が貼ってあった。遠目から店のドアを見ながらトッケビは空しくなった。もうアルバイトまで辞めた。どこに飛びはねるかわからない女子高生はずっと逃げる準備でもしていた人のように素早くもあった。もう本当にどこに行けば見つけられるのかわからなかった。ウンタクが決めて自分から遠ざかることにしたのであれば、ウンタクが呼ぶまでは会うのは難しいことだった。どうすればいいのか。口の中が乾いてきた。
茫然とした表情で踵を返すトッケビの方に向かって華やかな服を着た女性が歩いてきた。高いヒールの靴を履いた彼女がトッケビの横を通り過ぎる瞬間、彼女の近い未来が見えた。その未来に青ざめた顔の死神がいた。死神と付き合っていたという、ウンタクのチキン屋の社長がこの女性なんだな。トッケビが立ち止った。死神と彼女は別れの最中だった。トッケビの表情が曇った。
店に向かったサニーが急に後に振り向き自分を見ているトッケビをまっすぐに見た。視線がぶつかった。
 「そこのお兄さん?」
サニーが眉毛を上げて、甲高い声で呼んだ。久しぶりに聞いた「お兄さん」だった。トッケビは瞬間妹が自分を呼んだ声でも聴いたかのように驚いて固まった。
 「なんで私の店をじろじろ見ていたのかしら?もしかしてアルバイト募集に?」
 「そうではなくて、この店のアルバイト生を探している途中で・・・」
アルバイト生を探しているという話にサニーの表情がさらに険しくなった。露骨に下から上までじろじろ見たサニーの視線にトッケビは少しとまどった。
 「服、時計、靴、頭の先から足の先まで大体2500万ウォンぐらいつぎ込んだ方が自給6030ウォンのうちのアルバイトとどういう関係なのかしら?もしかしてあの子を泣かせたのはあなた?肩身の狭い思いをさせながら国の仕事をしたっていうあの野郎なの?」
 「泣いた・・・んですか?」
 「そうなのね。うちのアルバイトを振った人。ああ、やっぱりぴったりだわ。あなたもしかして妻帯者?それであの子をこんな風に捨てたわけ?」
 「婚姻前であり新婦がいるのでそう思ってもよいし。ではまた会いましょう。ややこしい縁は私だけではないようなので」
 泣いたというウンタクが気になってトッケビは急いで踵を返した。後ろでサニーがお兄さんと呼ぶ声が力強かった。

ウンタクがすぐに剣を抜いてあげる必要ななかった。キレイにしてくれなくてもよかった。胸に剣が刺さって少し不細工なままで、だから幸せに一緒に百年ぐらいさらに生きて死を迎えようとした。だからウンタクを探して、お前が俺にとって死になるのは、お前が死ぬ時しかないと言ってあげたかったが、今はそれさえできなかった。泣いたと言った。強いが小さいあの子はすごく泣いただろう。またすごく怒ったはずだが、ウンタクがトッケビを先に呼ぶことは当分ないだろう。しかしウンタクにどんな事がいつどのように迫るかわからなかった。
P90
結局その方法しかないのだろうか。トッケビはコートも脱げないままリビングのソファに座った。すべての事が空しい瞬間だったが、少しでも早くウンタクを見つけなければならなかった。死神の助けが必要だった。
 「ウンタクの書類を上げてないと言ったよな。とりあえず書類から上げてくれ」
 「何の書類?」
 「その他漏落者の書類。名簿に上げてあの子が死ぬ日でも見てみよう。」
 「おまえ、あの子を死なせたいのか?え?」
 「どこでどんな風に死ぬか分かればお前だろうと俺だろうと行けるだろう」
 「何言ってるんだ。その他漏落者がなんで死ぬ?俺はそんな意志はないのに」
 「もっと大きな意志があるみたいだ・・・」
残忍で非道な神の意志がトッケビの胸に再び刺さり、しばし言葉を飲み込んだ。
 「俺たち一体なんなのか。トッケビと死神が二人もそろってあの子一人救えないなんて」
トッケビの行き詰ったような表情に死神はこれ以上聞かないことにした。名簿に名前を上げるというのはちょっと悩んだ末に出した頼みごとではなかったのだ。
P91
 「。。。書類上げておくよ。でもその間にもしかして万が一、そしたらどうする?」
 「行って来い。命が危うくなる時がきたら感じるはずだ。その瞬間にあの子が切実に求めるのが俺なら」
自分はすでに切実に願ったがウンタクを探すことができなかった。明朗な子の明るい声が聞こえず、静かな家の中に響くトッケビの声が寂しかった。明るい笑顔を心から見たかった。


ただじっと待っていることができずトッケビはウンタクがいそうな所をあてもなく彷徨った。隠れてしまったのだからトッケビが知っているところにいるはずもなかったができることはそれだけだった。
ウンタクが叔母の家族と住んだ家の前の門をうろうろしていて、ウンタクを訪ねてきた同じクラスの班長から修学能力試験の成績表を預かった。このような状況で成績が良く感心したし、学校にも行かずに他の所にいるウンタクが心配になって、また会いたかった。寂しくて空しく終いには、怒りが再び湧いてきた。神に見捨てられたものができる選択肢がいくつにもならなかった。
連日雨が降り続き、都心のビルは神のため息のような霧の中に霞んだ。濃く深く重たい霧だった。昼も夜のように暗かった。原因が明確ではない真冬、季節はずれの霧に気象庁は右往左往し、曇った視野の間で普段よりもさらに多くの事故が発生した。ある夜には赤く巨大な月が霧の間に上がった。奇奇怪怪な月が赤い光を放った。月が噴き出すおどろおどろしい光は人々を恐怖に陥れた。
建物のてっぺんの上に立ち不吉な気運で満ちた都心を後にしたままトッケビは頭を持ち上げた。救急センターで出血多量で死んだ患者が突然血色のいい顔で目をぱっと覚ました。死神が持ってきた名簿が手の中で燃え上がった。死神には申し訳ないことだった。どんな方法でも抵抗したかった。人間の生死に関与することが喜ばれるはすがなかったので、そのように神の袖でもぎゅっと握りしめたかった。暗い空の上で耳を打つ雷がもう一度落ちた。

死神がトッケビの部屋にバタバタと入ってきた。予想通り相当怒り心頭だった。
 「謝れば終わりか?事故はお前が起こしたのに、なんで夜勤は   死神がしなきゃならないんだ。畏れ多くも名簿を燃やすか?永遠に生きてるから怖いものが無いのか。お前と俺の悲劇的運命はすごく遺憾だよ。そうだといってこんな風に人間の人事をかき乱してどうするんだ。まったく非常識なトッケビめ。」
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「ただ誰か見てくれと、神が見てくれたらいいし、ウンタクが見たらもっといいし・・・」
神であろうとウンタクであろうと激烈に燃えるような自分の心を知ってくれたらよかったのだ。だからどんな方法だろうと応答があることをトッケビは願っていた。腹を立てた死神はトッケビが以前のように言い返すこともせずやつれてしまったような顔をしているのでかえって申し訳なく思ってしまった。
 「言わなきゃよかった!その他漏落者が剣をぱっと抜いてしまえばいいものを」
申し訳なさに心にもないことをぶつぶつ言って死神は部屋のドアを開けて出て行った。トッケビが憂鬱な顔でつぶやいた。
 「。。。そうだよな。それがよかったかも」
ウンタクだろうと自分だろうと少しそれほど辛くなかった時に無に帰らなければならなかった。
ゆっくりと体を動かしたトッケビは窓辺に立ち依然として陰鬱な気運を満たした赤い月を眺めていた。神は依然として聞いても見てもいないのは明らかだった。彼の一日、一日は再び遺言状になった。ウンタクの死を望まず、自分の死を願う一日になった。
 「私がもし、その選択をする場合、何か口実が・・・必ずなければなりません」
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彼の目頭が月のように赤くなった。涙を務めて飲み込んだ。

湿気が満ちた家の中にトックァがどかどかと入ってきた。スーパームーンに、霧に、外の世界は騒々しくてごたごたしているのにこの家は何事もなかったかのようにとりわけ落ち着いていた。恐ろしいほどだった。トックァはうるさく叔父を呼んだ。
 「これ全部おじさんだろ!家出した女子高生を探すのになんで“世の中にこんなことが”をする?俺、本当に
NASAがおじさんを掴まえにくるかと思ったよ!」
トックァがひどく責めてもトッケビは曇った顔をするだけ、別段反応を見せなかった。トッケビ新婦がなぜ急に家を出て、なぜ全知全能に近いトッケビが新婦1人も探せないでこんな顔で家の中で打ちひしがれているのかは分からなくても一つは確実だった。早くウンタクを探してあげれば、この家も、外の世界もちゃんと転がっていくであろうという事実だった。
 「俺がその子を探し出したらおじさん俺に何してくれる?俺にカードくれる?」
 「俺も探せないのにお前がどうやって」
 「遠くには行けないだろ。あの子もお金ないじゃないか。どこに行くにしても大韓民国で、何か乗るとしたら高速バスだろ。俺なりのやり方があるんだから」
自信満々なトックァが訝しげに見たが、名簿にまで名前を上げたところだった。トックァでも信じて見なければならないかと思うとひどく悩ましかった。疑い深い目を送ってもトックァはニコニコ笑うだけだった。すぐにでも探し出せるだろうというように。


白い蝶一匹が雪原に舞い込んできた。広大に広がった雪原の上で羽ばたくと建物の入り口にひらりと舞い降りた。
 「あの子見つけたよ。今スキー場にいる」
まぶしい照明が明るく照らしている所はウンタクがしばらくの間仕事をすることになったスキー場だった。高い山を削って作ったスキー場は都心の外郭の中でもかなり高い所にあった。ウンタクはレンタルパートで仕事をしながらスキー装備を運び、訪れた客に対応しながらちょうど合う装備を見つけてあげる。客が休みなく行き交い、
装備もかなり重たく体がきつい仕事だった。それでもお金もたくさんもらえて、何よりも仕事をしている間は無我夢中忙しく悲しんだり怒ったりする暇がないのがよかった。
休憩室の片側に置かれたテレビのニュースでは連日異常気象に関するニュースが伝えられていた。トッケビが作りだした異変が明らかだった、おじさんが辛くて悲しくて怒っているようだった。ニュースが出るたびに気分が沈んだ。冷たい雪の上を転がるように心が冷えた。
仕事を終えて宿所に戻っていく道すがら目にありありと浮かんだ。赤いマフラーは依然としてウンタクの首に巻かれていた。母親のプレゼントであり、その次にはトッケビが巻いてくれたので、彼のプレゼントのようにも思った。暖かいマフラーだった。しかしマフラーをしてもウンタクは寒さを感じた。白い雪の上にウンタクの小さい足跡が残った。すべてトッケビと分かち合った記憶だった。初雪が降る日剣を抜くことにして、剣を抜こうとした日トッケビが作ってくれた雪が降った。雨も雪も避けることができず、すべてトッケビのせいだから、ウンタクは決まってまた感情がこみあげるのだった
 「あ~腹が立つ。雪がめちゃ多い」
風が吹いて降りしきる雪が舞った。その中でウンタクはまた目元が熱くなって口をぎゅっとつむった。一人で立ったウンタクのそばに影が近づいていた。とぼとぼと大きい足跡を残し歩いてくるのはトッケビだった。ウンタクが逃げてきたのはトッケビであり、いつかはもう一度こうやって向き合えると思っていた。
あれほど会いたかったウンタクに向かってゆっくりと、しかし遅くもなくトッケビが近づいてきた。間隔を置いて立ったまま二人の目がお互いを映した。
 「家に帰ろう。お前ひとりこんな風にいたらだめだ」
よどんで擦れたトッケビの声がやるせなかった。ウンタクは努めて表情を固めた。
P97
 「私家はないの。私が家だと思っていた所は私の家じゃなかったの。ただ近くに置いたんでしょ。誰かは保険金のせいで、誰かは死にたくて。」
そうではないと言いたかったが初めはその言葉が正しかった。長い間待っていた。あまりにも長い生を終えたくてトッケビ新婦を切実に探した。
 「もう全部知ってるんだけど?わたし。トッケビの不滅を終える、消滅の道具らしいじゃない?わたしが」
涙をいっぱいにためた目で今にも泣きだしそうに見上げるウンタクを見つめるトッケビの心がチクチクした。冷たい風がウンタクの頬をかすめた。この子の笑い声が降りしきる雪の下、蝋燭の火のように消えてしまったのはすべて自分のせいだった。神のせいだったがこの子の守護神は自分なので、この子の笑いが消えたのはすべて自分のせいだった。
 「話すチャンスを逃し、チャンスを逃したから幸いだったし、可能なら死ぬ瞬間まですべてのチャンスを逃すつもりだった。でもそれではだめだったんだ。この剣に付いた数千の血を、そのひとつの生命の重みを俺が判断してはだめだったんだ。だからお前は道具として役割を果たせ。この剣を抜け。お願いだ」
最後まですべて自分のせいとして抱いて行かねばならなかった。この子の美しい20才、幸せな30才、そのすべての生のために。どんな甘いものよりも甘ったるい告白になるところだった告白は世の中で最も冷たい告白になっていた。トッケビの無表情を見てウンタクは歯をくいしばった。
 「違うわ。嫌よ。死んでも嫌。だからただ私を探さないで。私を探さずにそれぞれ知らない人として生きましょうよ。私から遠く離れて、ただ長く生きて。キム・シンさんは。わかった?二度と現れないで。再び私の目の前に現れたらその時は本当に殺しちゃうから」
冷たく跳ね返すウンタクの本心を知らないはずはなかった。だから殺してくれたら、ウンタクが自分を殺して生きてくれたらと思い、トッケビは、キム・シンは切実に願った。そうしながらも一瞬でもさらにウンタクを目に留めておきたいという欲を畳むことができず、自分を通りすごし、降りしきる雪の中に消えていくウンタクの後ろ姿を黒いコートの上に白い雪が積もるほど茫然と見つめていた。

二度と現れるなと言ったが、トッケビはよくもウンタクのそばに現れた。前にさえ現れなければいいというようにウンタクの後を追いかけた。ウンタクが仕事をする姿を見守り、ウンタクが歩いた跡を踏んで歩いた。わかっている振りもしなかったがウンタクは彼の気配をすべて感じていた。自分を殺してくれとやってきた男の足音にさえ耳を傾けることはかなり忌々しいことだった。ウンタクは歩みを止めないまま雪がうず高く積もった真っ白な林道に入っていった。
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風が起きると森が泣き、やせ細った枝の上に積もっていた雪片がどさどさと落ちた。トッケビの歩みが止まった。これ以上ついてこないのかと思いウンタクはずっと前だけ見て歩いた。行ってしまったのか、結局。ウンタクのまなざしが風に揺れる雪片のように揺れた。ウンタクが立ち止り後を振り返った。誰もいない長い林道だけが広がっていた。トッケビが消えた誰もいない場所をしばらく見つめていた。心にも空席ができたように開いていた。涙が滲み再び前に向いたが、行ってしまったと思ったトッケビが目の前にいた。目元にたまった涙がこっけいで、この時点に自分をだましたトッケビがもう一度憎らしくなった。
近づいてきたトッケビがポケットから白い紙を取り出し複雑な表情で泣きだしそうに自分を見ているウンタクに向かって差し出した。班長から預かった修学能力試験の成績表だった。
 「これ渡そうと思って。試験よくやったな」
 「それも口実だと」
 「この口実でもできたら嬉しいよ。こうでもしてお前に会いに来れた口実」
二人の視線が辛く交差した。後ずさりできないところに二人は立っていた。荒涼として辛い森の中の真ん中だった。
P100
 「会いに来てどうしようっていうの。口実ができてどうしようと?一緒に生きようと、一緒に死のうと!私がもう一度現れたら殺してしまうって言ったじゃない!こっちに来てよ。剣抜いてあげるわ。それが望みならそのようにしてあげるから。来てよ、早く!」
ウンタクの感情が激高するのをトッケビは待っていたかのように大股でウンタクの前に足を踏み出した。あきれ果てた。その瞬間がウンタクはあまりにも空しかった。おじさんはそんなに死にたいのか、この生を到底耐えることができないのかと思い激しい悲しみを感じた。
鼻先まで近づいたトッケビがウンタクの手をぱっとひったくるように掴んだ。大きな手に掴まれてウンタクの手がトッケビの胸の辺りに動いた。赤く凍りついたウンタクの手が、剣が刺さっている場所の上にあった。驚いたウンタクが掴まれた手首を抜こうとするが、トッケビはさらに強く手首を掴むだけだった。抜こうとしてもトッケビの手は断固として手ごわかった。どこまで自分に残忍になろうとするのか。ウンタクの声が震えた。
 「やめて!」
 「抜け。そうしなきゃ・」
 「放して!放してよ!」
溢れそうな涙が結局どっと溢れだした。どんなに抜こうとしても自分を放してくれないトッケビに掴まれていない手でウンタクは彼の肩や胸を叩いた。ウンタクのこぶしが届く所にはどんな感覚さえも感じなかった。トッケビの痛みは離せと叫ぶウンタクの涙から来た。固く決心した心もどうしようもなく崩れた。握っていた手から力が抜けた。-
 「あの時からだった。あのホテルで決心して。あの時からこうしようと」
必要なら愛することまでするといった。好きであることはあったのか。死にたくて焦っていたこの男は、残される自分のようなものは目に見えず、ただ死ぬことだけを要請していた。ウンタクの人生に訪れたどんな不幸もこの程度で残忍に振舞うことはなかった。
 「それで、私のことは愛してくれたの?違うの?それさえもしなかったの?」
泣いて、叫んで息の切れたウンタクがあえぎながら聞いた。
トッケビの顔に影が垂れ込めた。
 「。。。怖い、すごく怖い」
務めて冷たい海に投げ入れていた彼の本心がついにウンタクの悲しみに溶け彼の口の外に流れだした。
 「だからお前がずっと必要だと言ってくれたら有難い。そこまでやれと言ってくれたら。そんな許しのような口実が。。。できたら嬉しい。その口実で俺がずっと生きていけたら嬉しい。お前と一緒に」
生きたい。ウンタク。お前と一緒に。千年まで生きたが今こそまた生きたくて、まだ20才の子を掴まえてでもも哀願したかった。トッケビの目から涙が一滴こぼれた。
P102
ウンタクは拳を握った手を下ろした。トッケビが泣いていた。彼が怖いと言っている。ウンタクはもっと怖かった。ウンタクの救いでありウンタクが助けになってくれると信じた者が泣くからだ。死神の言葉がちらついた。
 「お前がその剣を抜けばやつはチリに、風になって飛ばされるだろう。この世。あるいは次の世のどこかに永久に」
涙が涙と出会い、悲しみが海のように広がった。気の毒な恋人たちがお互いを抱いたまま泣いた。


ウンタクを連れてくると言ったトッケビが1人家に戻ってきた。いかなる仮定をしてみても、結末はトッケビの死だったし、そんな結末でウンタクを説得できるはずもなかった。トッケビは肩を落としていた。そんなトッケビにさらに肩の荷が増えた。死神が名簿を取り出した。
 「書類が上がるのを待っていたように出てきた名簿は初めてだ。その他漏落者の名簿が来た」
トッケビが言ったその場ですぐに後輩の死神にウンタクの書類を整理してあげろと言ったが、普通はその他漏落者の書類を上げたと言ってこんなにすぐに名簿が落ちてくるものではなかった。しかしウンタクの死ぬ日を指定されて待っていたように死神に名簿が来た。

 ジ・ウンタク 19才、丙申年 庚子月 戌辰日 20時11分 凍死
           【2016年12月12日 20時11分】

死神が見るには赤い文字が鮮明だったがトッケビの目にはどんな文字も見えなかった。ただ空欄の紙にしか見えなかった。
 「ウンタクが 間違いないのか? 何も書いてないじゃないか」
 「あるよ、文字。大体この状況がなんなんだ。必ず誰かが死ぬと背中を押しているみたいだ。それは俺でもないし、お前はもっと違うはずだし」
 「俺のせいだ。俺が死ねばあの子が生きるって。俺が生きればあの子は死ぬって。それがあの子と俺の運命らしい」
自分が生きようとすることはウンタクの存在価値をあいまいにし、死に押しやっていた。トッケビのため息が深かった。
 「これが俺に下された罰だった。神のさらに大きな意志だった。これが」
 「弱音を吐くな。神の意志がそうだとしても俺の意志はそうじゃないからな。お前もそうだし」
死神がトッケビを催促した。名簿に書かれた通りならウンタクの死は目の前に迫っていた。これから1時間後、ウンタクを探さなければならない。
P104
あの子の前にしょっちゅう死が迫ってくるだろうと言った。これからさらに強くなり、ウンタクが死んだら、それは自分がウンタクを手放してやらないから起きることだ。トッケビがこの生を手放さないからであろう。自分の欲がウンタクを死に追い込んでいた。トッケビはそれを耐える自信がなかった。何としても無に帰らなければならなかった。トッケビは広々としたスキー場の隅々を燃やしてしまいたい心情を押さえ駆け回った。どこかで冷たく震えているウンタクを思うと心臓が止まりそうだった。
その時だった。
雪原の真ん中に立ったトッケビを泣かせたのはウンタクの声だった。ウンタクの告白だった。

ウンタクが修理するスキーブーツを抱えて修理倉庫に来た時、交代時間だといって職員がしばし席をはずした状態だった。重たい装備を下ろしてウンタクはそばの簡易椅子にしばし座った。暖房が効いていない修理倉庫はひんやりしていた。手をこすって暖かくしウンタクはトッケビを思いだしては消すことを繰り返した。立てかけて置いたスノーボードが滑って装備を備えておいた棚を倒す直前までそのようにウンタクはトッケビを思い出していた。
P105
どん、どん、重たい轟音がウンタクに襲い掛かりスノーボードが倒れてウンタクの頭をかすめていった。その衝撃と共にウンタクは床に倒れた。
どれだけ過ぎたのか気が付いた時、ウンタクは全身が凍りついて立ち上がることができなかった。ぶるぶる震えながら体を動かそうとしたが指1本動かすことも大変だった。すごく寒かった。遠のいていく意識の中でトッケビが現れた。たくさんの思い出が積もりに積もっていた。海辺も、蕎麦の花畑も、本屋の前の道も、バス停留所も、カナダの紅葉の木の下のトッケビも、そして森の中雪の上で悲しく告白したそれもまた、ウンタクに残っていた。
 「必要なの。そこまでして」
白い吐息がバラバラになった。ずっと必要だと言ってくれたら嬉しいと、、そこまでしろと言ってくれたら嬉しいと、そのような許しのような口実ができたら嬉しいと彼が言った。彼が必要ではない時がなかった。19才の誕生日まで彼なしでどのように生きていたのか分からないほどに、ウンタクが彼を必要とすることが彼にとってもいいことなら、ウンタクは一生彼を必要だと言うことができた。生きていさえしてくれたら、目がだんだんと閉じていった。とても寒かった。
 「愛してる」
ぽとり、何かが途切れる感じと同時に首の後ろの烙印が鮮明に光を放った。
P106
ウンタクの「愛してる」の声がトッケビに行きついた。


少しだけ遅くても名簿に書かれた通りになるところだった。倉庫のドアを壊して入っていったトッケビが、スノーボードの下敷きになったまま意識を失っていたウンタクを抱きかかえ、近隣の病院に移した。低体温症に軽い脳震盪までおこしたウンタクは死んだように病院のベッドに横たわっていた。目を開けたのはしばらく後だった。
チョヌグループの柳会長の指示でウンタクを手厚く見守り、待機していた医師たちがウンタクに状況を説明してあげた。白いガウンを着た医師らの間にトッケビは見えなかった。明らかに自分をここに連れてきたのはトッケビだった。必要だといったから。愛してるとまで言ったから彼がこないはずがなかった。だからぼ~っとしていたウンタクが意識を取り戻すや否や探したのはマッチだった。会いたかった。彼に。今はどこにいるのか。どこに立って自分を待っているのか。ウンタクはベッドの端に掛けられた大きなコートを取り上げた。トッケビのものだった。
ウンタクは病院の外に出て、ゴンドラに乗った。ウンタクを載せたゴンドラが山の頂上に向かってゆっくりと動いた。静かな空間に一人ウンタクはマッチ取り出した。指の先に力を入れてマッチに火を付け、ふ~っと吹くとすぐに燃えていた火が消えて細い煙となった。しかし上がる煙の間に現れなければならないトッケビは現れなかった。揺れるゴンドラにはウンタクだけだった。
火を消しでも来ないトッケビは想像もできないことで、当惑した。そんなはずがないのに。。。ウンタクは涙があふれ出したように鼻先がじ~んとした。完全に回復していない体は心まで弱くした。ウンタクはトッケビがかけてくれたコートの前を合わせた。ゴンドラの速度が遅くなった。到着点だった。ゴンドラのドアが開いた隙間からうつむいたウンタクの手をひったくって引っ張る手があった。トッケビだった。
 「来ないと思ったわ!もう来ないと思ってわたし・・・」
ウンタクは泣いていた。
 「先に来て待ってたんだ」
 「誰がそう言ったのよ。誰が!呼んだら来なくちゃ!そこに来なくちゃ。私の目の前にいなくちゃ!」
 「先に来ててを取ってあげよとしたんだ、俺は」
 「知らない。いいわよ。行ってよ。呼ばなきゃよかった」
なぜしょっちゅう泣かせるのかわからなかった。泣かそうとしていない時もウンタクは泣いていて、トッケビはどうすることもできなかった。お前がまた呼んでくれて有難かったと言いたかった。安堵の涙を手の甲で拭いながらウンタクはトッケビを押しのけて外にでた。
 「外は寒い。泣くな」
トッケビがウンタクに付いて出た。二人が立ったところには雪原を一目で見下ろせた。美しく、童話のようだった。トッケビに会って以来ウンタクの生は童話になっていた。真の愛で王子を呪いから救いだす美しくて愛らしい童話だとある時ウンタクは考えた。背中の後ろで暖かい温気が感じられた。トッケビが懐の中に小さいウンタクを閉じこめた。一方の手でウンタクの腰をかかえ引き寄せた。
鼻をすすっていたウンタクが驚いて固まるのを感じた。ウンタクのうなじにしばし顎を埋めウンタクの体温を分かち合った。
 「俺も」
 息遣いで伝わってくる低い声。この童話は泣きたいぐらい美しかった。ウンタクのトッケビはウンタクを愛していた。
 「何が?」
 「わからないならいい」
 「全部わかってるけど」
 「それならそれでいい」
神が見ている山の頂上の上、冷たい風が彼らをひたすら二人を引き離そうとしたが、トッケビは新婦をぎゅっと抱いたままだった。
 「わたし告白することがあるの。わたしもうおじさんに見えるものがないの。背が高くて服が高そうに見えて、目がとってもすてきで、見えるのはそれがすべて。だからおじさんの剣は抜いてあげられない」
ウンタクが振り返って目を合わせるといたずらっぽく笑った。その笑みさえ悲しかった。悲しくてまた愛らしかった。トッケビは今思う存分愛されている。愛されているという事実がトッケビをいっぱいにした。胸がいっぱいでまた悲しかった。涙を流す代わりに笑うことにした。
 「笑っても抜いてあげないから。私の目には、おじさん今もものすごくかっこいいわよ」
一番きれいなのはお前だった。幼い顔にこびりついた涙の跡をトッケビが拭いてやった。



(つづく)

● COMMENT ●

切ない…。

更新ありがとうございます😊早速読みました。
トッケビとウンタクの運命が切なすぎて…ウルっときてしまいました💦
このシーンを思い出したら、またトッケビを観たくなってきちゃいました😀

SAMTAさん

こつこつ翻訳18回目 早速読ませてて頂きました。
文字を追っていくと映像が浮かび、
再びドラマの世界にひたっています。

字幕だけでは充分ではなかった作家の思いを
より感じることができ、有難いです。

これからも翻訳よろしくお願いします。

くくまさん

御返事遅くなりました~^^;;;
今日は、コン・ユ主演の映画「釜山行き」を見てきたんですが
ドラマの中でトッケビとウンタクが二人でこの映画を観て大騒ぎするシーンを
思わず思い出してしまいました(笑)
残念ながら吹き替えだったんですが・・・

翻訳もボチボチ、コツコツやってます~♡
お待たせしてすみません、<(_ _)>

ムスカリさん

御返事遅くなりました~
そうですね。
作家の深い意図をわかってみると
またまたドラマの素晴らしさに感動します☆

翻訳もコツコツがんばります~♪

釜山行き

「釜山行き」、私、大好きな映画です💕コン・ユが、自分の出演作を自分で怖がっている演技は面白すぎますよね🤣

くくまさん
そうなんですね。
今日公開でSCREEN Xという三面スクリーンで見てきました。
やはり映画はスクリーンでみなくちゃ!と実感しました☆
ゾンビ映画なのに、くすっと笑えるところもあり、最後はじ~んと泣けますね・・・

トッケビが言っていたとおり、「韓国映画は安泰」ですね☆


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映画「V.I.P.」キム・ミョンミン 現場に1時間早く行くのはルーティンのようなもの☆ «  | BLOG TOP |  » 映画「V.I.P.」後に出るクレジットは苦労した順・・・by 監督

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V,I,P, 2017 8月24日大公開!

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(우)135-889 서울특별시 강남구
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MM ENTERTAINMENT 김명민님
ソウル市江南区島山大路17通19
(新沙洞543-11)温岩ビル302号
MMエンターテインメント
キム・ミョンミン様

プロフィール

SAMTA

Author:SAMTA
横浜在住
韓国ドラマ・映画好き
韓国俳優キム・ミョンミンさんの
カンマエに嵌ったのが2009年5月。
それからミョンミン道一筋です☆
韓国語、韓国料理など韓国文化全般に
興味があります。☆

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